Aug 21, 2010

レビューはオススメ、会計事務所を検索する

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【衝撃事件の核心】

 「私たちの老後の夢を、あの会社は一瞬にして奪った。絶対に許さない」−。埼玉県警が詐欺容疑で元会長らを逮捕した注文住宅販売会社「アーバンエステート」(埼玉県川口市、破産手続き中)の詐欺事件で、工事代金をだまし取られた60代の女性はこう語った。大量のテレビCMで「一生安心の家」をうたう一方、無謀な経営の果てに平成21年4月に自己破産。今も、約500棟の住宅が未着工や未完成のまま残されている。粉飾決算や異様な前払い金の催促、さらには使途不明金…。ワンマン経営者の「暴走」の軌跡を追った。(塩塚夢)

 ■高かった捜査上のハードル

 「外堀は埋まった。いける」。昨年暮れ、アーバンエステート旧経営陣の詐欺容疑での立件を目指していた埼玉県警の捜査関係者は、思わずこうつぶやいた。さいたま地検との協議なども経て、最終的に強制捜査着手にゴーサインが出たのだ。

 顧客からカネを集めたまま企業が経営破綻するのは、顧客がカネを取り戻すのが非常に困難であるという意味で犯罪の色彩を帯びることは多い。だが、それを刑事事件として立件できるかどうかといえば、話はそう簡単ではない。

 破綻した企業が株式を上場していて、有価証券報告書などで財務内容を粉飾していた場合には、金融商品取引法違反の疑いが生じる。しかし、アーバン社のように非上場の会社では、いくら決算書の内容が粉飾されていても、投資家を欺いたことにはならないので同法違反に問うことはできない。

 会社側が「もうウチの会社はつぶれる」と知りながらカネを集めていたとすれば詐欺罪の成立する疑いが強いが、これも難度の高い捜査だ。平成21年1月に破綻した注文住宅販売会社「富士ハウス」(浜松市、破産手続き中)をめぐっては、元社長が顧客から詐欺罪で刑事告訴されながらも、静岡地検浜松支部は「詐欺を裏付ける証拠がない」として同年12月に嫌疑不十分で不起訴処分にしている。

 アーバン社の捜査でも、乗り越えるべきハードルがいくつも待ち受けていた。

 まず、アーバン社旧経営陣が、いったいいつの時点で経営破綻状態だと認識していたのかをはっきりさせねばならない。「ウチの会社はもうつぶれる。もう住宅は建てられない」と旧経営陣が認識した後に顧客から集めたカネでないと、顧客から「だまし取った」カネとはいえないからだ。

 さらに、資材を発注するなど、アーバン社が積極的に住宅を建てようとした形跡があったかどうかもつぶす必要がある。こうした点について埼玉県警は徹底的に帳簿を調査、関係者からの聞き取りも行った。

 その結果、少なくとも経営破綻直前の21年3月時点で旧経営陣が財務状況を把握しており、住宅の着工が不可能でありながら顧客に契約金を前払いさせていたと判断。また、元会長らが、「資金繰り会議」と称した経理に関する打ち合わせを頻繁に開催していたとみられることなども浮かび上がった。

 埼玉県警は年明け早々、詐欺容疑で旧経営陣らの逮捕に踏み切った。さいたま地検は1月25日、詐欺罪で実質的経営者の元会長、永井昭四郎容疑者(61)と元取締役兼営業部長の三井晴子容疑者(57)を起訴。埼玉県警は詐欺容疑で2人を再逮捕して取り調べを続けている。

 ■急成長から破綻、「資産隠し」疑惑も

 登記簿などによると、アーバンエステートは平成14年9月に設立された。「格安で高品質な注文住宅」を売りに急速に事業を拡大していき、21年には首都圏を中心に約40カ所の事業所を展開するまでに成長した。

 だが、すでに経営には暗雲が立ちこめていた。被害対策弁護団によると、アーバン社は19年12月期には営業利益を7600万円と公表。だが、経営破綻後の破産管財人の調査によって、実際には19年12月期は十数億円、20年12月期には約30億円の赤字が出ていたことが判明した。被害対策弁護団は「格安の戦略により、アーバン社の原価率は同業他社より非常に高かった。1棟当たり数百万円程度しか利益は出ず、販売管理費を差し引くと赤字になるのは目に見えていた」と指摘する。

 それにも関わらず、アーバン社はこの時期に前後して、大量のテレビCMを流し、積極的な顧客の勧誘を展開し始める。

 《アーバン♪ アーバン♪ アーバンエステート〜》

 軽快なCMソングが、妙に耳に残っているという人も多いのではないか。関東地方では数年前までこのテレビCMが大量に流され、アーバン社の知名度も確実にアップしていった。

 だが、その結果として平成20年度のアーバン社の広告宣伝費は約13億円と、売り上げ総利益の約3分の2を占めるほどに膨れ上がっていた。

 人件費も高く、従業員の給与は同業他社に比べ高水準だったという。永井容疑者をはじめとした旧経営陣も、月額数百万円の高報酬を受け取っていた。

 「広告費で顧客を集め、工事以外に回していけば経営が悪化するのは当然。あまりにも支出面の計画性が欠けている」(弁護団)

 また、永井容疑者は妻の経営するパブに計2000万円を出資。破綻直前に回収し、自分の口座に移したとみられる。「資産隠し」ともみられるこの行動について、永井容疑者は債権者集会で「(2000万円は)誤って捨てた」と説明したという。被害者の一人は「あまりにも無責任。(永井容疑者は)以前にも会社を立ち上げては潰してを繰り返していたようだ。もともと、いつかは潰れると思っていたのでは」と怒りをにじませた。

 永井容疑者は20年ごろから、銀行へ借り入れの打診をしては断られていた。銀行からの融資を断念し施主からカネを取るしかないと判断したのか、アーバン社は顧客からの前払い金の受け取りを加速させていく。

 「1週間以内に1000万円を前払いすれば、工事代金を割り引く」などと言葉巧みに勧誘。中には工事代金の全額を前払いした顧客もいた。こうして顧客から集めた金は計約35億円に上り、このうち計約27億円余りが未着工分だ。

 ■異常な前払いの多さ、法規制は?

 住宅関連企業などで構成される社団法人「住宅生産団体連合会」の担当者は「アーバン社の前払い金の高さは異常」と指摘する。同法人では、アーバン社や富士ハウスの相次ぐ破綻を受け、21年3月に前払い金に関するガイドラインを発表した。それによると、契約時から完成時までの各段階に分けて、3回から5回に分けて支払うのが一般的だという。

 4回払いの場合、契約時1、着工時3、上棟時3、完成時3などの割合が適切だとの指針を示している。「通常、契約時の支払いは1〜2割。全額なんてありえない」(同法人)。

 こうした前払い制度について、現行では法による規制はない。同法人は「住宅業界のほとんどを占めるのは中小企業。資材の手配など、前払い金制度は必要不可欠。法制化によって硬直化してしまえば、ほとんどがつぶれてしまう」と説明し、こう続けた。

 「住宅の資材の価格は大体決まっている。無理な割引などはできないもの。施工業者の打ち合わせでの姿勢などから、しっかりと信頼できる業者を見極めてほしい」

 だが、被害者の会の代表を務める男性(38)は「家は一生に一度の大きな買い物。このままでは同じような被害を受ける人が出てしまうのでは」と危惧。さらに、「なぜあんな無謀な経営を行ったのか。今後の被害を防ぐためにも、今までのらりくらりと交わしてきた永井容疑者らには、きっちりと法廷で説明をしてほしい」と訴える。

 無軌道な経営の果てに、多くの夢を奪った永井容疑者ら。被害者の声は届くのだろうか。

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