Jan 11, 2009

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東日本大震災は地震と津波の被害だけでなく、原子力発電所の事故による放射性物質の漏洩、さらにはそれに伴う電力不足も引き起こした。今回は原発事故に関する1カ月間の報道を通じて、私が感じたことを紹介したい。

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東京から“ガイジン”が消えた

 私はこの1カ月間、多くの日本人の知人から「逃げなかったのか?」「まだ日本にいるのか?」と聞かれ続けた。この類の質問には、「多くの外国人はとっくに避難しているのに、なぜ君は…」という前置きが隠されている。

 多くの外資系企業では、原発事故が明らかになった段階で、社員(特に外国人)に対して避難勧告を出した。例えば米国のある大手テレビ局は、東京のオフィス機能をすぐさま大阪に移した。また米国系の経済専門報道機関は、日本人社員以外、ほぼ全員が日本から出国した。さらに東京千代田区にある外資系高級ホテルは、3月17日から4月14日まで休業していた。こうした動きには、外国人幹部が率先して避難したことも背景にあったようだ。

 かばうわけではないが、彼らの行動も理解できる。外国で報道された今回の震災は、あまりにも悲惨な内容が多かった。私の知人(外国人)には「東京を離れたら仕事にならないが、家族や本国の友人に懇願されたので、とりあえず避難する」という者が多かった。

 震災直後に東京から避難した人々は現在、徐々に戻ってきているようだ。読売新聞の報道によると、米国国務省は4月14日、原発事故後、名古屋より東側で働く大使館員や政府職員の家族を対象に発令してきた自主的な国外避難勧告を、解除すると発表したという。

 しかし、状況は好転しているとは言い難い。原発の状態は「落ち着いてきた」どころか「予断を許さない状況」だ。原発事故の深刻さを示す国際評価尺度(INES)は4月12日、最悪の「レベル7」と評価された。現在でも高濃度の汚染水が海に流れ出ていたり、セシウムが検出されたりしている。外国人が(もちろん日本人も)不安に感じるのも無理はない。

 とはいえ、今回の外国メディアの震災報道は、外国人の私から見ても「それは違うぞ」と感じる記事が少なからず見受けられた。

「海外の報道によると…」の違和感

 日本では、日本語以外のメディアは「外国メディア」とひとくくりにされる。しかし私から見ると、外国メディアは大きく2つに分けられる。1つは日本在住のジャーナリストが報じているもの。そしてもう1つは今回の震災取材のために来日したジャーナリストが報じたもの。そしてこの2つには、大きな「温度差」と、日本に対する「視点」の違いがある。

 震災取材のために来日した外国人ジャーナリスト(メディア)は、「地震や津波で壊滅的になった地域」や「東京で起こった買い占めパニック」をピンポイントで探し出し、大々的に報じていた。彼らの中には初めて来日する者も多く、渋滞や繁華街の人の多さなど、「日本の日常的な風景」も、すべて震災報道に結びつけようとしている印象を持った。そして「地震と津波で日本は破壊された」「原発事故で日本は衰退する」「とにかく日本から逃げろ」といった“刺激的”な報道をくり返していたのも、こうしたメディアだった。

 一方、私を含む日本在住のジャーナリストは、こうした報道とは一線を画していた(と自負している)。日本の生活者でもあるわれわれは、今回の震災を伝えると同時に、そこに生活している人々がどのような状況に置かれているのか、問題解決のために政府や東京電力/原子力安全・保安院がどのような対策を講じているのかに注目していた。実際、私がいちばん信用していたのは、日本在住のジャーナリストによる英語の報道だった。

 しかしそんな私も、一度だけ東京から離れようか悩んだことがある。それは3月17日、米国が福島第一原子力発電所から80Km圏内にいる自国民に対し、避難勧告を出した時だ。

 それまで日本政府は福島第一原子力発電所から30Km圏内地域の人を対象に、屋内退避/自主避難勧告を出していた。ではこの50Kmの差は何なのか。一部では80Kmという距離は国土の広い米国内基準だから深刻に考える必要はないという報道があった。しかし私にとってそれは、屁理屈以外の何ものでもなかった。

 また同時期にIAEA(国際原子力機関)が「(第一原発)が深刻な状況」と判断したり、米国国務長官であるヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)氏が「日本の情報は信頼できない」と発言したりしたことも、不安に拍車をかけた。ほかの日本人と同様、「ただちに健康には影響がない」という政府の言い回しにも、違和感を覚えた。そして何より政府や東京電力の会見が、深夜に行われていたことが不可解だった。そんなに記者に来てほしくない内容の話をするのか、と。

 こうした中、英国大使館は在日英国人の希望者に対し、ヨウ素酸カリウム(Potassium Iodate)を2日ぶん(4錠)無料で配布した。たかだか2日ぶんでは意味がないと日本人の同僚に笑われたが、英国政府が自国民の健康を心配している“証”という意味では、大きいと思う。

警戒したのは放射能よりもパニック

 実は、私がいちばん恐れていたのは、放射能でも余震でもなく東京でパニックが起こることだった。

 パニックが起こった場合、最善策は街中に出ないことである。一部メディアでは成田空港の出国ラッシュや空っぽになったスーパーの棚の様子などが報じられていたが、自宅周辺(浜松町)や会社周辺(泉岳寺)のスーパーやコンビニエンス・ストアで食品は売っている。冷静に考えれば、パニックなど起こるはずはない。あとから考えれば、成田空港の出国ラッシュは日本人ではなく外国人が大半だった。そう考えると皮肉なものだ。

 前述したとおり、東京に拠点を構える外資系(特に米国系)企業では、社員の安全確保のため、外国人社員を東京から一時退避させる動きが目立った。退避にかかわる費用は、すべて会社負担という企業が多かった。しかしだからといって、外資系企業が社員の健康を第一に考えているとは言えないようだ。ある米国人は興味深い話をしてくれた。会社は「社員の安全のため」と公言しているが、会社がいちばん恐れているのは、社員から訴えられることだというのだ。

 業務命令で赴任した地で被曝した(そこまで至らなくても健康被害を受けた)ら、当然社員は会社の責任を問うだろう。生命にかかわることだけに、その賠償金額は莫大になるはずだ。そうならないために会社は、「日本政府が安全だと判断していた段階でも、社員の安全確保のためアクションを起こした」という“エクスキューズ”が必要だったのだという。         

*  *  *

          最後に日本メディアの報道について、私が感じたことを紹介したい。

 日本のメディアは、津波や地震の被害は大きく報じているが、原発事故の報道は抑制しているように感じた。これはパニックを引き起こさないためか、原発事故に関する情報ソースが政府と東京電力しかないからなのかはわからない。

 もちろん、不安を煽るような報道をする必要はない。しかし、原発事故が明らかになった時点で事態の深刻さを指摘し、「レベル7」に匹敵する事故であると指摘していたジャーナリストは存在した。パニックを警戒するあまり、日本の報道はこうした指摘を必要以上に抑えてしまったのではないだろうか。

 私は日本の今後のエネルギー政策について、口を出す立場にない(ITジャーナリストがにわか知識だけで語れる内容ではない)。しかし今回の事故で、少なくとも「原子力発電所は安全」でないことは明らかになった。日本は今後、レベル7の原子力事故が引き起こした、あらゆる面での被害やその代償に直面することになる。

 東北地方にあるIT関連の工場は、続々と操業を再開させている。彼らの復興にかける意気込みには、本当に頭が下がる。世界のIT業界は、彼らの復興を注目している。政府や東京電力が、その足を引っ張ってはならない。

(リポート/Martyn Williams(IDG News Service東京支局)、構成/Computerworld編集部)


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